転移すると怖い場所

椅子と花がん細胞は、進行すれば全身のあらゆるところへ転移する可能性があります。特に転移が集中しやすい場所があると同時に、1度転移を起こすと治療が難しくなったり、厄介な症状が出てしまう場所というのも存在します。

例えば、血管やリンパなど、そこから全身へとさらに転移が広がってしまうような要所。さらに、脳や骨など、日常生活に大きな支障をきたすような症状が出てしまう器官などは、転移を防ぎたい場所です。

できるだけ転移を起こさないよう、起きてしまっても早期に治療できるよう、定期的に検査を行っておくべき、要注意ポイントを解説します。

血管やリンパへの転移

がん治療において、リンパ節と大きな血管への転移や浸潤は、常に意識しておかなければならない重要なポイント。このふたつへ腫瘍が入り込んでしまうと、全身にがん細胞が巡ってしまうことになるからです。

がん細胞は血液の流れに入り込むと、肝臓や肺に到達し、そこで増殖。血液は全身に張り巡らされているため、外科的手術によって完治させることが非常に困難です。

また、リンパ節転移はがんの細胞がリンパ液に入り込み、リンパの流れによって組織外にあるリンパ節に転移することによって生じるもの。例えば胃がんの場合、初めは胃の周辺のリンパ節からがんが広がり、やがて遠いリンパ節までにも及ぶと考えられています。リンパ節転移が初期の段階であればがんと同時に周辺のリンパ節を取り除いて治療可能ですが、がん細胞がリンパ液の流れに乗って全身に転移していると外科手術では完全に取り除くことが困難となるため、治療は化学療法中心となります。[注1]

言うなれば、血管は全身の細胞へ酸素や栄養を運ぶ上水道のようなもの。リンパ管は全身の細胞から老廃物を排出する下水道です。この流れにがん細胞が乗ると、いつどんな場所に流れ着いて定着し、腫瘍が発生するのか全く予想できません。

例えば、乳がんと診断されて切除手術を行う場合、乳がんの原発巣と同時に、脇の下のリンパ節まで取り除いてしまうケースがあります。それは、リンパから脳などへの遠隔転移を防ぐ狙いがあるからです。また、すい臓などのように、すぐ近くに大きな動脈やリンパ、神経などが多数通っている場所は、がんが発生すると初期の段階から遠隔転移を起こしやすく、病状が進みやすい傾向があります。

脳への転移

あらゆる種類のがんで亡くなった患者さんを病理解剖してみると、2〜4割には脳への転移が見つかるようです。特に肺がんと乳がんは転移性の脳腫瘍を起こしやすいそうですが、その他の種類のがんでも、進行すると脳への転移が生じる可能性が高まります。

脳にがんが転移すると、頭痛やてんかん発作、麻痺やしびれなどが起こることがあり、2〜3割の人には、急に性格が変わったり物覚えが悪くなったりする、精神症状が現れます。大きくなった腫瘍が脳を圧迫することによる身体的または言語的な障害や麻痺、頭痛などの症状は、日常生活に少なからず影響をもたらします。

特に肺がんからの脳転移は腫瘍が大きくなるスピードが速く、平均25日で倍の大きさにまで成長すると言われていますので、早急に発見し、摘出手術や放射線治療などを行う必要があります。

外科手術の適応には、以下の基準を満たすことが重要です。

  1. 単発性(脳腫瘍が一つだけ)で全身状態がいい
  2. 手術により重篤な後遺症を残さない部位にある
  3. 原発巣(もともとがんがあった部位)が十分にコントロールされている
  4. 頭蓋外転移があっても、直接生命に影響がない
  5. 確定診断が困難である

しかし、そのほかの場合でも手術によるQOLの改善が見込まれる場合、患者さんの体調を見ながら手術を行うことがあるようです。

放射線治療は、脳全体に照射する全脳照射腫瘍部のみに放射線を照射する定位放射線照射があります。定位放射線照射は腫瘍部のみに一回で多くの放射線を照射できるため、治療期間が短く、身体的な負担も少ないことで知られています。放射線治療は外科手術が適応外な場合や、原発巣や他臓器でのがんの進行が認められる場合などに選択されます。[注2]

骨への転移

どのがんにも骨へ転移する可能性があるとされています。そのため、がんが進行すると、骨転移の可能性を念頭に置かなくてはなりません。

骨へ転移したがんを転移性骨腫瘍と言い、特に骨転移を起こしやすいものは、骨髄腫や肺がん・乳がん・腎がん・前立腺がんなどと言われています。

骨に到達したがん細胞は増殖するために骨細胞を破壊するため、転移した初期にはそれほど症状はありませんが、腫瘍が大きくなって骨組織を圧迫すると、動かした時の強い痛みや安静時の持続する痛みが出て、少しの衝撃で骨折することもあります。

特に背骨に転移した場合は、腫瘍によって骨が潰れて圧迫骨折をおこしたり、背骨近くの脊髄神経が圧迫されて、手足の麻痺やしびれが出ることも。血中のカルシウム濃度を測定し、高濃度であった場合、骨転移が存在する可能性があります。

骨への転移は、進行すると日常生活に大きく関わる障害が出やすいので、原発がんの治療と並行して対応するのが一般的です。骨転移の治療方法としては骨転移による麻痺、骨折を防ぐための薬剤の投与や、痛みがある場合には放射線治療も選択肢に入ります。

また、骨転移が進行し、激しい痛みや、骨細胞の破壊、神経圧迫などが進むと、外科的に取り除く必要があるでしょう。例えば脊髄麻痺が生じた場合は急速に麻痺が進み、一度麻痺状態に至ってしまうと回復は困難を極めるため、速やかに対応し、麻痺をいかに回復させるかが治療のポイントとなります。[注3]

  • [注3]日本臨床腫瘍学会:骨転移診療ガイドライン[pdf]

肝臓への転移

がんの種類によってどこに転移するかは異なるのですが、肝臓の場合、ほぼすべてのがんが転移する可能性があります。肝臓は肺と同じくがんが転移しやすい臓器でもあるため、転移については十分に注意しておかなければなりません。

肝臓に転移する可能性が特に高いのは、大腸がんや胃がん、膵がんといった消化器系のがんに加え、乳がん、肺がん、頭頸部のがん、子宮や卵巣に発生した婦人科系のがん、腎がんなどが挙げられます。

この中でも特に可能性が高いのは大腸がんだといえるでしょう。[注4]

肝臓に転移する原因は原発巣の周囲の血管やリンパ管にがん細胞が入り込み、血液・リンパ液の流れに乗って広がったものが肝臓にたどり着くためです。ここで新たながん細胞の塊を作ることにより肝臓に転移し、肝臓に症状が発生します。

大腸がんとして発生していたものの、肝臓への転移が確認された場合、治療には手術を伴うケースが多いです。

治療の基本は肝切除、化学治療、外科治療と薬物治療との組み合わせ、肝臓の再生能力を活かした治療方針となっています。

できる限り予後を向上させるために何よりも重要になってくるのが早期発見です。早期の段階で転移巣を発見できれば治療の選択肢も広がるでしょう。ただ、肝臓にがん細胞が広がっていたとしてもなかなか症状が現れにくいといえます。つまり、何らかの症状を感じて病院を受診した場合、その時点でかなり症状が悪化している可能性があるということ。

異変を感じて受診した時には肝臓全体に転移しているケースも珍しくありません。 もしも肝転移が多発性だった場合、手術ではなく持続動注療法や全身化学療法を選択する可能性が高くなるでしょう。単発の肝転移であれば切除も可能です。切除ができればその後の向上についても期待できます。

肺への転移

肺は肝臓以上にがん細胞の転移が起こりやすい臓器でもあります。国立がんセンター中央病院によると、大腸がん単発の肺転移が起きた場合、肺転移の切除後10年生存率は47%に達したとあります。[注5]

そもそもなぜ肺に転移するのかというと、大きな原因として挙げられるのがリンパ行性の転移、経管腔性の転移、血行性の転移です。様々な経路によってがん細胞が肺に入り、そこで増殖することによって転移を引き起こします。

治療については、現在、肺がんがどのような状態であるのかによって変わってくるでしょう。例えば、原発がしっかりとコントロールされており、肺に転移があるもののそれがわずかな状況であれば、局所療法で高い効果が期待できます。

ただし、手術に耐えられる体力があるなどの条件も関わってくるでしょう。これは肺転移の治療に関することだけでなく、すべての手術において言えることです。また、肺以外の臓器に遠隔転移がないことも切除の適用基準とされています。これに加え、一肺側肺に限局していることも切除の適用基準です。

この「肺側肺に限局していること」といった条件についてですが、近年は医療関連の技術も進み、両肺の同時切除が不可能ではなくなりました。そのため、絶対条件とはならないでしょう。

仮に両肺に転移が確認されていたとしても、すべての肺転移巣が完全に切除可能であれば切除が検討されることもあり、実際に多くの治療報告もされています。

肺と言えば、呼吸するのに欠かせない役割を持っており、胸の左右にあります。なぜ肺はがん細胞が転移しやすいのかというと、がん細胞の多くが肺を通過するからです。

がんにかかったことがない方が肺がんを発症した場合、原発性である可能性が高いのですが、他のがんの治療を以前に行ったことがあり、その後に肺にがんが確認されたからといって必ずしも転移性肺がんとは限りません。判定には胸腔鏡や開胸手術が行われることもあり、結果に応じて治療を進めていくことになります。

がんの転移とは

がんの転移とは、原発巣のがん細胞が血液やリンパの流れに乗って別の場所へ移動し、その場所でがん細胞が増殖すること。転移がなければ、がんは手術によって根治させることができると言われていますが、それほど転移は厄介なものなのです。

手術によって原発巣のがん細胞を取り除いたとしても、すでに血液などにがん細胞が入り込んでいた場合には、別の場所で転移性のがんが発症することもあります。

転移の経路

がん細胞の転移の経路には、血行性転移、リンパ性転移、播種性転移の3つのタイプがあります。それぞれの転移について、メカニズムを中心とした特徴を解説します。

血行性転移

血行性転移とは、静脈の流れに乗って遠く離れた場所にがん細胞が転移すること。 原発巣に宿っていたがん細胞が、近くにある静脈の壁を壊して血管内に侵入し、血液の流れに乗って別の場所へ移動。遠く離れた場所で血管の内壁を壊して外に出て、その場所で浸潤・増殖するといったメカニズムです。

静脈には概ね決まった経路があるので、転移先も予測しやすいとされています。原発巣が大腸の場合は肝臓へ、原発巣が胃の場合は肺への転移が多く見られます。 ただし、転移するがん細胞の性質によっては、転移先との親和性の問題もあることから、予想できない場所への転移が見られることもあります。

なお、血行性転移は抗がん剤がよく効くことでも知られています。多くの抗がん剤は水溶性(水に溶ける性質)のため、血液との相性が良いからです。

リンパ行性転移

リンパ性転移とは、リンパの流れに乗って別の場所へとがん細胞が転移すること。 原発巣の近くのリンパ管からがん細胞が管内部へと侵入し、リンパの流れに乗ってリンパ節まで到達。そこでがん細胞を増殖させつつ、次々に離れたリンパ節へと転移していくといったメカニズムです。

もともとリンパには、T細胞などの免疫機能が備わっています。そのためリンパ管内に異物が侵入したとしても速やかに撃退されることになるのですが、がん細胞の性質や患者の状態によっては、この免疫機能がうまく働かないことがあるとされています。

なお、リンパ性転移は抗がん剤が効きにくいと言われています。多くの抗がん剤は水溶性であるのに対し、リンパの体部分が脂だからです。その意味において、血行性転移に比べて治療が厄介な転移とされています。

播種性転移

播種性転移とは、種をまいたように点々とがん細胞が転移すること。 胸腔や腹腔などに面した臓器が原発となり、剥がれ落ちたがん細胞が隣接する胸腔や腹腔へ点々と拡大していく、といったメカニズムです。

播種性転移は、主に胃がんや肺がんで見られる転移です。胃がんが胃壁を壊して腹膜に広く播種性転移を起こすことを「腹膜播種」と言い、肺がんが胸膜を壊して胸膜表面に播種性転移を起こすことを「胸膜播種」と言います。

播種性転移は治療が難しいとされる種類の転移。一般的には抗がん剤での治療が行われますが、現状では根治を目的とした治療は難しいとされています。

がん細胞の転移先ごとの処置

血管やリンパへの転移

がんが発見された場合、転移する可能性のある範囲のリンパ節も同時に切除することが多いです。それだけ血管やリンパは転移の可能性が高いわけですが、基本的にリンパ転移の可能性がある場合は抗がん剤を用いた化学療法が適用されます。

ただ、リンパ節転移の中でも非常に限局したものだった場合、放射線治療を行うこともできます。放射線治療にもいくつかの種類があるため、状況に応じて最適なものを取り入れていくことになるでしょう。放射線治療であれば体全体に与える負担は小さく済む可能性もあるため、状況に応じて手術、抗がん剤治療、放射線治療といった選択肢がとられることになります。[注6]

脳への転移

がん細胞が脳に転移した場合、転移巣を小さくするための治療や、症状を和らげる治療が行われます。中でも中心となってくるのが放射線治療です。放射線治療では全脳照射と呼ばれる脳全体に放射線を当てる治療のほか、定位放射線照射という病巣のみに放射線を当てる方法が挙げられます。ただ、病巣が1つのみで、手術で取り除けると判断された場合には切除手術を行うこともあるのです。[注7]

場合によっては症状改善のためにステロイドなどの薬物を使うこともあります。がんの治療といえば抗がん剤による治療も代表的ですが、脳転移の場合は抗がん剤を使ったとしても脳組織と血管との間にある障壁と呼ばれる部分が邪魔をしてうまく行き渡らないため、治療に用いることはほとんどありません。

骨への転移

骨への転移が確認されてしまった場合、最も代表的な治療の選択肢は放射線治療によるものとなります。単発転移に関しては、甲状腺がんや腎がんなどの場合、整形外科的な治療による根治的切除に関しても検討していくことになるでしょう。

骨転移した場合の治療選択肢は手術のみしか用意されていないわけではないので、具体的にどのような治療を行うのかに関してはがんの状態を見極めながら検討していきます。骨への転移が進行すると激しい痛みが出るため、整形外科的な手術が必要になってくる可能性も高いです。脊髄麻痺が発生した場合は緊急手術を行わなければなりません。他、病的骨折に関しても速やかに手術を行います。[注3]

  • [注3]日本臨床腫瘍学会:骨転移診療ガイドライン[pdf]

肝臓への転移

原発がんの性質によって治療内容は変わってきます。例えば、大腸がんからの転移では手術で対応することが多いのに対し、進行の早い原発がんからの転移だった場合、局所療法による効果はそれほど期待できません。肺がんや膵がん、胆道がん、膵がんからの転移だった場合などがこれに該当します。この場合は手術ではなく、全身性化学療法の方が高い効果が期待できるケースもあるのです。

胃がん、腎がん、乳がん、卵巣がんなどからの転移だった場合は、「状況に応じて肝切除を行った方が良い」と判断された場合に限り手術を行うことになります。このあたりは実際の状態を確認しながら医師の判断によって変わってくるポイントでもあるので、治療する際にはよく確認しておきましょう。[注8]

肺への転移

肺に転移してしまった場合、原発がんがどこだったのかによって治療が異なります。現在の原発がんがどのような状態になっているかも関係しているのですが、ほとんどの場合は進行がんであるため、抗がん剤を用いた治療を行うことになるでしょう。近年は治療効果を高めるための分子標的治療薬が開発され、これらを活用した治療も行われています。 これまで、腎がんや肝がんから肺に転移してきた場合、有効的な薬が少なかったのですが、分子標的治療薬頬はこれらにも効果的です。[注9]

他にも、前立腺がんからの転移であればホルモン療法を行うこともあります。手術に関してはすべての転移巣が切除可能であることを大前提とし、元の臓器のがんが切除されている、肺以外に再発がないなどの条件はありますが不可能ではありません。

  • [注9]一般社団法人日本呼吸器学会:転移性肺腫瘍

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