がんが最初に発生した臓器とは違う場所へ腫瘍ができるものを転移と呼びます。
なかでも“局所転移”と“遠隔転移”とでは少し性質が異なっています。
治療法も予後も違ってきますので、それぞれの特徴や治療について比較しながら解説しましょう。
転移したがんの中でも、最初に発生した原発がんと同じ臓器や、周辺に発生するものを局所転移(局所再発)と呼びます。例えば、肝臓は人間の臓器の中で最もサイズが大きく、がんが発生すると同じ肝臓内でいくつか転移や再発を繰り返すことがあり、局所転移の最たる例です。
また、臓器とそれに隣接するリンパ節は同時に治療することが多く、原発がんのすぐそばのリンパ節などに起きた転移についても、局所転移と考えます。
局所転移が発生する原因は、最初の外科治療で取り逃したがん細胞が増殖してしまうパターンがひとつ。さらに、浸潤したがんが原発の臓器から外へ出てしまい、周辺へと腫瘍が飛び散ってしまうパターンがあります。[注1]
局所転移を起こしている段階では、がん細胞がまだ一部の臓器だけに留まっていると考えることができます。
局所転移の場合は、腫瘍が発生している臓器や器官と、その周辺のリンパ節などを取り除いてしまえば、まだ十分に完治や寛かいの余地があると考えられ、外科手術の適用となるケースが多いという特徴があります。治療の効果が上がりやすく、予後も比較的良好だと言われています。[注2]
原発がんが進行し、血管やリンパにまで腫瘍が浸潤を起こしているようなケースでは、血管やリンパの流れにがん細胞が乗ってあちこちに転移してしまうことがあり、この現象を遠隔転移と呼びます。
遠隔転移が比較的多いとされるのは、肝臓や肺、脳や骨など。血流やリンパの流れが集中しやすい場所には、がん細胞が集まりやすいということですね。さらに、微細な血管が多い場所などにも、がん細胞が流れ着いて定着しやすいようです。
遠い場所に転移している場合でも、がん細胞の性質は原発がんと同じですので、抗がん剤の種類などは、原発がんに効くものを選ぶことになります。[注3]
原発がんと離れた場所に転移巣が見つかったときは、がん細胞がすでに全身を巡っていると考えるのが妥当です。微小ながん細胞があちこちに散らばっていることが予想されるため、外科手術で目に見える腫瘍を取り除いたとしても、完治できるほどの治療効果がないと考え、体の負担となる外科治療は行いません。
ひとつでも多くの腫瘍細胞を減らし、がんの増殖を抑えるために、抗がん剤による化学療法など全身治療に切り替えます。痛みや苦痛を和らげるための緩和ケアなどを行う場合もあります。[注3]
乳がんの転移には、患部側の局所転移やリンパ節を含む遠隔転移があります。骨・肺・肝などの遠隔転移と同じくらい頻度が高く、全身転移を合併する症例も多く見られます。局所転移の場合でも、全身病となってあらわれることが多いとされているのです。
とあるクリニックの17年間の乳がん手術症例数を見ると2,413例あり、そのうちの490例(20.3%)で再発・転移が認められました。さらに、はじめて転移が認められた臓器・組織を調べると、骨転移29.5%、局所転移18.5%、領 域リンパ節転移16.5%、肺転移16.3%、肝転移8.7%、胸膜転移4.5%、脳転移2.1%で、局所転移は骨に次いで頻度が高くなっています。
領域リンパ節転移と乳房温存手術後の乳腺内転移を除外した場合の局所転移の症例数は107例。他病死4例を除いた103例を比較対象として、転移が起こった要因を検討しました。対象となる103例の初回手術時の年齢は25~83歳。乳がんの治療で行った術式は、胸筋温存乳房切除術が81例(78.6%)、乳房温存手術が2例でした。転移後の平均観察期間は44ヶ月で、3年生存率は57.9%、5年生存率は39.4%だったとのこと。また、手術後の平均観 察期間は68ヶ月、5年生存率は59.8%、10年生存率は35.4%ありました。[注1]
年齢別では、手術後と転移後の生存率に明らかな差は認められませんでした。病期で比較すると、ステージ3以上の症例では手術後の生存期間が短い傾向があったとのこと。ホルモン依存性がんの有無を示すエストロゲンレセプターが陽性だったがんの転移後の50%生存期間は62ヶ月(約5年)、手術後では98ヶ月(約8年)で、陰性だった乳がんの21ヶ月、35ヶ月よりも再発後と手術後の延命期間が長かったです。[注1]
局所転移のみが起こった症例は17例(16.5%)しかありませんでした。局所転移の確認時または3ヶ月以内に他臓器転移を認めた同時重複転移が37例で、他臓器転移が86例(83.5%)だったとのこと。他臓器転移合併症の再発後の50%生存率は44ヶ月、手術後の50%生存率は65ヶ月で、局所転移のみ生じた症例と比べると予後は良くない状態でした。
このことから、局所転移の症状には再発部位での局所病変と局所病変から全身病への移行があると考えられます。今回の症例を見ると、後者の全身病への移行が多くの症例で見られました。はじめは局所転移であっても、全身病に移行する可能性はゼロではないようです。局所転移から全身病を引き起こす前に、何らかの治療を受ける必要があるのかもしれません。[注4]
肺がんは、最も予後の悪い腫瘍のひとつです。なぜなら、化学療法のような保存的療法の効き目が低く、発見時すでに転移している症例数も多くあるためです。切除率も30%前後と、低いことが挙げられます。さらに、切除ができても完璧に治癒できた切除例は少なく、その70%以上は周囲の臓器への浸潤があるか縦隔リンパ節に転移が見られるとのこと。肺を切除した場合の5年生存率は30%で、肺がん全体では10%前後と低いのが現状です。
肺がんの切除例のうち、転移を引き起こした例について最初に再発が発見された部位の特徴とその対策、肺転移例に対する再切除例を調査した事例を紹介します。とあるクリニックで最近の10年間に切除した肺がんの症例251例 のうち、5年以上生存した40例、転移したものの生存できた10例(ステージ1期6例・3A期3例・4期1例)。さらに、治癒できなかった切除例以外の転移例で死亡した症例のうち他病院死19例と手術関連死亡11例を除くがんの死亡例で、転移部位と予後の分かっている74例(ステージ1期24例・2期7例・3A期43例)の計84例が調査の対象です。[注2]
術後より5年以上生存した症例の大部分はステージ1・2期の症例で、3期で5年以上生存した症例は10%でした。その一方で再発死亡例は3期の症例が多く、肺がんの組織型別に3期の割合を見ると扁平上皮がんで64%、腺がんで57%だったようです。しかし、1期の場合でもかなりの割合で転移による死亡が見られており、特に大細胞がんが40%、腺がんが37%と多くあります。
局所転移の部位では、肺・脳・骨の順で多く、組織型別だと扁平上皮がんでは肺・脳・胸壁、腺がんでは肺・骨・脳の順でした。また、腺がんでの血行性転移が73%で、扁平上皮がんの52%に比べて多くあります。大細胞がんでは、脳への転移が半数を占めている状況です。
このことから、肺がんの治療成績は10年前と比較しても良くなっているとは言えません。その原因は肺がんの早期発見が困難であり、さらに予後を改善できるほど有効な化学療法や免疫療法がいまだ開発されていないことにあります。肺がん転移に有効な治療法の開発が待たれるところです。[注5]
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