がんと聞くと、転移や再発が起こりやすいとイメージしがちですが、すべてのがんが必ず転移するとは限らないようです。
種類によって、転移の可能性が高いがんと、めったに転移を起こさないがんがあるので、転移を起こしやすいと言われているがんの転移先や、再発を起こしやすいがんについて特徴をまとめてみました。
腫瘍が最初に発生した場所によって、がん細胞の性質が異なり、転移が起こる可能性が高いがんと、転移しにくいと言われるがんに分類されるそうです。がん細胞は、生じた始めは上皮細胞に似た構造をしていますが、進行すると形が変化し、最終的にはアメーバ状になり浸潤していくことが明らかになってきました。アメーバ状になったがん細胞は運動機能を獲得するため、他の臓器に転移してしまうのでしょう。
また、がんが発生した臓器の形状や位置などの要因によっても、転移が起こりやすくなります。例えば、大きな血管やリンパが周辺に集まっている臓器は、遠隔転移が生じやすくなるわけです。
逆に、がん細胞の性質と臓器の形状などの要因により、転移が起こりにくいがんもあります。
甲状腺がんや子宮頸がんなどを原発とするがんは、めったに転移を起こさないと言われています。
しかし、「がん」の定義には「転移すること」が含まれているため、絶対に転移しないわけではありません。がんが発生した臓器による差はあれど、どのがんも転移する可能性を持っています。
動物を使った実験では「転移しやすいがん細胞」と「転移しにくいがん細胞」があることが明らかになっていますが、がんが発生してみないと詳しい特徴は分からないため、どんながんでも転移の懸念がつきまといます。
がんが転移しやすいかどうかというのは、発生してみなければ判断できない場合が多く、「甲状腺がんだから絶対に転移はしない」「肝臓がんだから必ず転移してしまう」とは言い切れないのが実情です。転移していたことが明らかにならなければ、転移しやすさが計れない現実があります。
また、がんが大きいから転移しやすいわけでもありません。例えば、小さくても原発巣での進行の早い肺がんや前立腺がんなどは「転移しやすい」がんと言えるのではないでしょうか。反対に原発巣が肉眼で見えるほど大きくても、乳がん(養生肉腫)や肝細胞がんは他の臓器への転移があまり見られないことから、「転移しにくい」といえます。
がん細胞は血管やリンパ管などを通して、原発巣から転移していきます。小さな細胞単位で動くため、がんの大きさだけでは転移しやすさは計れないということでしょう。[注1]
<転移しやすいがんとその転移先>
転移しやすいがん | 転移先 |
---|---|
肺がん | 肝臓、腎臓、肝臓、脳、骨 など |
胃がん | 肺、肝臓、腎臓、すい臓 など |
乳がん | 肝臓、肺、脳、骨 など |
すい臓がん | 肝臓、十二指腸、胆管、腹膜 など |
大腸がん | 肝臓、肺、脳、骨 など |
悪性黒色腫(メラノーマ) | リンパ節、骨 など |
ここで言う「転移しやすい」とは、臓器間でのがん細胞の移動のことで、発症しやすさとはまた別です。
例えば、大腸がんは肝臓に転移しやすい特徴があります。しかし、直に接しているはずの腹膜にはあまり転移が見られません。
そのかわり、胃がんは腹膜に転移しやすいと言います。また、前立腺がんや乳がんは骨転移が見られます。原発巣で発生したがん細胞には、転移しやすい臓器とそうでない臓器があるということです。
臓器間でのがん転移は、血管やリンパ管を通って起こります。また、血流やリンパ液の流れに乗ってたどり着いた先の臓器が、がん細胞にとって増殖しやすい環境なのかも転移しやすさに関わっているようです。言い方が適切でないかもしれませんが、がん細胞が「種」だとすると相性の良い「土壌(臓器)」でなければ増殖しない・しにくいということになります。このような関係を「種と土壌説(seed and soil theory)」と言います。
この「血流やリンパ液の流れに乗る」「たどり着いた先の臓器との相性」と言う条件が複雑に絡み合うことで、がんの転移しやすさが変わってくるのです。[注2]
他の臓器や器官へ転移を生じやすいがんについて、その原因や代表的な転移先を解説しましょう。
乳がんは、女性の乳房にある乳腺に発生するがん。腫瘍は小さくても、早期からがん細胞がこぼれ落ちて周辺に転移しやすく、脇の下のリンパ節や乳房の下の筋肉組織に転移や浸潤を起こしてしまいます。リンパや血流に乗って、肝臓や脳などに遠隔転移することもあります。
乳がんが肺や肝臓、脳などに転移した場合、ホルモン療法や化学療法、分子標的治療などの薬物療法が中心になります。薬物療法で進行をなるべく遅らせたり、がんによるつらい症状を和らげたりするのが目標です。脳への転移では、放射線治療を組み合わせる場合もあります。骨への転移には、骨の分解を抑えるビスフォスフォネート製剤や分子標的薬による治療を検討。骨への転移で痛みが強いときは、痛みを和らげるために手術や放射線治療を行うこともあります。
乳がんの転移先は多く、さらに一人ひとりで状態も異なるため、症状や体調、患者さんの要望に沿って治療・ケアの方針を決めていきます。
すい臓がんは症状が出にくく発見されにくいがんとして知られていますが、周辺に肝臓や胃、十二指腸などの臓器が集まっていることから、病巣の小さいうちに転移しやすいがんとしても注意が必要です。さらに、大きな血管や神経なども多く、遠隔転移を起こしてしまう可能性も高いがんです。
膵臓がんの病期は、日本膵臓学会が定めたものと国際的に使われている「UICC分類」とで内容が多少変わります。遠隔転移が見られる場合は同じステージ4に分類されますが、領域リンパ節への転移がある場合は日本膵臓学会ではいくつあってもステージ2B、UICC分類では1~3つ以上がステージ2Bで4つ以上がステージ3です。
すい臓がんは手術でがんを切除できると考えられるときには、手術の実施が推奨されています。局所転移や遠隔転移があった場合は薬物療法や放射線治療、痛みや食欲の低下などの症状に応じた緩和ケアが選択されることが一般的です。[注4]
胃がんが最初に発生するのは、胃の表層にある粘膜ですが、浸潤して固有筋層まで達すると、リンパ管や血管が多く通っており、リンパの流れや血流によって転移しやすくなってしまいます。胃がんの場合、リンパ行性転移、血行性転移、腹膜転移の順に起こりやすくなります。
リンパ行性転移が見られた場合はかなり遠くまで広がっていなければ、手術で原発がんと一緒に転移しているリンパ節をすべて切除することで治る可能性があります。ただし、同じリンパ節への転移でも胃から離れたがんは切除できません。がんが進行していたり、別の臓器に転移したりという場合には、がんそのものに対する治療だけでなく、痛みがある・食事がとれないといった症状の緩和が重視されます。
肺がんは血・リンパの流れに乗ってさまざまな臓器に転移する場合があり、転移した臓器を侵して臓器の働きを害します。肺がんが転移しやすい臓器は、肺・脳・骨・腎・副腎・肝臓など。転移病変による症状で肺がんだと気づく場合が多いのが特徴です。脳転移からの麻痺症状・ふらつきや、骨転移に伴う疼痛(とうつう)で発見されることがあります。
肺がんの転移巣は、原発がんの手術時から存在している可能性もあります。手術前の検査では分からないほど小さな転移巣が、手術後数ヶ月~数年経ってから行われたCT検査やPET検査などで発見されることがあるのです。肺がんの転移を確認する場合は、CT検査やMRI検査、PET検査などが行われます。CT検査は胸腹部の遠隔転移の有無を調べるために使用。MRI検査は、脳転移の調査に有効です。PET-CT検査は、脳以外の遠隔転移・リンパ節転移を調べるために使われます。
肺がんの転移では、転移巣の部位や広がりを調べた上で、手術治療・放射線治療・化学療法が選択されます。転移巣も早期に発見して治療できれば、進行を抑えることが十分に可能です。[注5][注6]
大腸がんは日本人の食生活の欧米化によって増加傾向にあるがんです。国立がん研究センターが提供しているがん統計によると、男女の罹患率と女性の死亡数で全がん中最多です。早期に発見すれば高確率で完治できるがんのひとつですが、初期段階では自覚症状がほとんど出ないのが特徴。がんの発見時には他の部位に転移した進行がんである場合が多く、肺や肝臓、骨に転移していることの多いがんです。
肺転移や肝転移が見られた場合の治療には、手術・薬物療法・熱凝固療法・放射線治療が行われます。転移した部位が切除可能なときは手術が選択されます。手術で切除できなくても薬物療法の効果があったときは、手術で転移巣を切除する場合もあります。脳転移の治療で選択されるのは、手術と放射線治療です。放射線治療には定位放射線照射と全脳照射があり、転移巣の状態によってどちらかが利用されます。[注7][注8]
悪性黒色腫(メラノーマ)は、色素をつくる細胞やほくろの細胞(母斑細胞)が悪性化することで生じる皮膚がんの一種です。病期は、リンパ節転移が1つ以上ある場合はステージ3、別の臓器へ転移している場合はステージ4に分類され、病期に基づいて治療法が決まります。全身のあらゆる臓器に転移する可能性があるのが特徴です。進行した悪性黒色腫には、外科治療や薬物療法、放射線治療などの手段を組み合わせた集学的治療が採用されます。
ステージ3の治療では、原発巣に対して切除手術と所属リンパ節の郭清手術が行われます。転移した部位には広範囲による切除やインターフェロン製剤注射、放射線治療などを実施。腫瘍の転移や再発を予防するためにもインターフェロンによる治療が採用されます。ステージ4の治療には集学的治療が採用されますが、遠隔転移が単発ですべて切除できる場合は、手術が行われることも。しかし、手術が可能な場合はあまりなく、一般に薬物療法が中心です。皮膚転移や皮下転移にはステージ3と同様に、手術や薬物療法が選択されます。[注9]
転移と同様に、細胞の性質上、再発しやすいとされるがんもあります。
特に再発しやすいとされているのは、肝臓がんやすい臓がん、膀胱がんなど。初期治療で臓器を全摘出してしまった場合は別ですが、腫瘍細胞のみを切除したケースでかなりの確率で再発すると言われています。
特に肝細胞がんは再発率が高く、切除手術を行ってから2年以内に70%の確立で再発すると言われています。そのうちの90%が、肝臓内に残ったがんの再発によるもの。多くの場合で再度の肝切除やラジオ波治療、肝動脈塞栓といった局所治療が選択されます。[注10]。
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